Implant
インプラント治療は、失われた歯を補うための欠損歯科補綴治療の一つとして近年広く普及しております。
人工の歯根をあごの骨に埋め込み、その上に人工歯を取り付けることで、審美性と機能の回復をすることができます。
しかし、インプラント治療には多くのメリットがある一方で、デメリットやリスクも存在します。本記事では、インプラント治療のメリットとデメリットを詳しく解説し、それぞれの観点からインプラントを検討する上での重要なポイントをお伝えしますので、インプラント治療のことを正しく知って欠損補綴の選択にお役立てください。
インプラントとは、失った歯の代わりにチタン製の人工歯根をあごの骨に埋め込み、その上に人工の歯冠を装着する治療法です。主に次のようなステップで行われます。
1
診断と計画
患者様のお口の状況や全身状況を確認し、インプラントが適しているか診断します。また、レントゲンやCTスキャンを用いて治療計画を立てます。
2
インプラントの埋入
チタン製のインプラント体（フィクスチャー）をあごの骨に埋め込みます。手術後、骨とインプラント（フィクスチャー）がしっかり結合するまで6週間〜3か月待ちます。埋入時の安定度の測定により手術当日に仮歯を入れる場合もあります。
3
アバットメントの装着
インプラントと人工歯を接続する部分（アバットメント）を取り付けます。この時点で仮歯が入る場合もあります。
4
人工歯の取り付け
最後に、患者様の口腔状況に合わせた人工歯をアバットメントに取り付け、治療が完了します。
5
メンテナンス
その後は定期的なメンテナンスを行います。メンテナンスの間隔は状況に応じて間隔が決まりますが、概ね３か月から6か月であることが多いです。
インプラントは、見た目や機能の面で自然の歯に非常に近い結果を得られます。インプラントに使用される人工歯は、色や形を周囲の歯や顔貌に合わせて作製されるため、ほとんどの場合、他の人からは人工歯だと気づかれることはありません。また、咬む力も天然歯とほぼ同等に回復し、しっかりと食事をとることができます。
ブリッジや入れ歯の治療法とは異なり、インプラントは隣の健康な歯を削ったり、隣の歯を揺さぶったり、大切な歯に余計な負荷をかけません。ブリッジでは、失われた歯の両側の健康な歯を削り、入れ歯では隣の歯にワイヤー（クラスプ）で維持するため、歯を支えとして使用しますが、インプラントは単独で機能できるため、ご自分の歯に余計な負荷をかけずに守れます。
また、噛み合わせを維持できるようになるため、欠損を放置したり入れ歯の場合に起こる咬合や歯並びの変化を防ぎます。
そのため、健康な歯を維持したうえでの治療が可能となります。
歯を失うと、あごの骨は徐々に吸収されていきます。これは、歯がなくなることでその部分にかかる力が減り、骨が使われなくなるからです。しかし、インプラントは人工の歯根を骨に埋め込むため、その部分に適度な力がかかり、骨の吸収を少なくできるとされています。
年間0.2mm以内の吸収量であればインプラントは安定しているという判断がなされます。骨の吸収量は一般的に、入れ歯＞欠損のまま（ブリッジ含む）＞インプラント＞天然歯（歯周病や咬合異常ではない場合）の順で骨吸収量が多いというデータがあります。
これにより、インプラントは骨の健康維持に貢献します。
適切にケアされ、定期的にメンテナンスを行うことで、インプラントは非常に長持ちします。ほとんどの患者様は10年以上、場合によっては一生涯にわたってインプラントを使用することができます。これにより、他の歯科治療に比べてコストパフォーマンスが高いと考えられ、QOLの維持に役立ちます。
歯を失うと、発音に影響が出ることがあります。欠損のまま放置すれば舌が肥大ししゃべりにくくなったり舌や頬を噛みやすくなることがあります。インプラントを用いることで、これを防ぎ、自然な発音が取り戻せます。特に、入れ歯と比べてインプラントでは、話している最中にズレたり動いたりする心配がないため、安心して会話ができます。
噛めるようになることで得られるメリットとして、咀嚼時に脳へ電気信号が伝わり認知症の予防に繋がるということが考えられています。
また、咀嚼ができれば今まで食べられなかったもの、食べたかったものが食べらるようになると、生活の質の向上や精神安定性の向上が得られ、栄養面でも色々なものを食べれば健康を維持できるようになります。体は食でできているという部分の一助となります。
また、高齢になるほど、趣味や興味は少なくなる傾向にあると思われますが、食の楽しみは歳を重ねてもずっと続くものです。旅行の楽しみのひとつでもある食事の楽しみは大きいですよね。
健康寿命を延ばすためには、食事を楽しむことが重要です。きちんと噛んで食事を摂ることで心身が安定し、健康を保つことができます。
インプラント治療は、通常保険適用外ですので1本あたり数十万円の費用がかかります。地域差はありますが1本あたり40万円前後が多いです。さらに、骨の量が不足している場合には骨移植が必要になり、追加の費用が発生します。
インプラント治療は外科的な手術が伴います。あごの骨にインプラントを埋め込むため、手術に対する不安を抱える方もいらっしゃいます。また、手術後には1週間程度痛みや腫れが出ることもあり、回復期間が必要です。さらに、手術には感染や出血、知覚麻痺等リスクも伴います。手術に際してはこれらの起こりうる事象に対して詳細な説明がありますので、ご理解を頂いてから治療に臨むことが大切です。
インプラントは、治療に長い期間がかかります。手術後、インプラントが骨と結合するまで6週間から6ヶ月を要し、その後人工歯の装着が行われます。全体の治療期間は6か月から1年程度かかることが一般的です。このため、即時的な解決を求める患者には向かないことがあります。取り外しの義歯でも同じくらいの期間が必要な場合もありますので、患者様の状況によっては義歯と同じくらいの治療期間である場合もあります。
インプラントを成功させるためには、あごの骨の質と量が十分であることが必要です。骨が十分でない場合には、骨移植が必要となる場合があります。特に、長期間歯を失ったまま放置していると、骨の退縮が進んでいることが多いため、インプラント治療が困難になることがあります。
インプラントは、自然歯と同様にメンテナンスが必要です。適切な口腔ケアを怠ると、周囲の組織に炎症が発生し、インプラント周囲炎という病気になる可能性があります。これは、自然歯における歯周病と同様で、最悪の場合、インプラントを失うこともあります。定期的な歯科検診と日々のケアが重要です。
インプラント治療が向いていない方でも治療が可能な方法もご提案できる場合はございます。
インプラント治療は、歯を失った方にとって非常に効果的な治療法であり、多くのメリットがあります。自然な見た目や噛む力の回復、周囲の歯に影響を与えない点など、他の治療法にはない利点を持っています。
さらに、現在の状況だけで判断せず、5年後10年後の口腔状況がどうなるのかを把握し、治療計画を選択することが最も重要です。
また、費用が高額であることや、治療期間が長いこと（近年では2ヶ月からおよそ6ヶ月）、外科的な手術が必要であるなどのデメリットもあります。
他の治療方法のデメリット（歯を削れば2度と戻せないことや、歯が揺さぶられて元の状況に戻すことはできないこと）も充分視野に入れておく必要もあります。
インプラント治療を検討する際は、これらのメリットとデメリットをしっかりと理解し、ライフスタイルや健康状態、経済状況を考慮した上で、5年後10年後にはご自身の歯をどうすれば守れるのか、当院では将来を見据えた治療計画をもとに充分なご提案を致しますので、お気軽にご相談ください。
日本口腔インプラント学会治療指針2024年
院長 下川博之
